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江川紹子の「事件ウオッチ」第183回

【安倍前首相「桜を見る会」不起訴不当】事件は終わっていない!…江川紹子はこう見る

文=江川紹子/ジャーナリスト
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2019年4月13日に開催された、安倍晋三首相(当時)主催の「桜を見る会」(写真:Tomohiro Ohsumi/Getty Images)

 総理大臣主催の公的行事「桜を見る会」の開催前夜に安倍晋三前首相の後援会が開いていた宴会の費用を安倍氏側が補填していた問題を巡って、東京第一検察審査会は、安倍氏本人や秘書らを不起訴とした東京地検特捜部の処分のうち、公職選挙法違反などについて、不起訴を「不当」とする議決を行った。議決書は「付言」のなかで「総理大臣であった者が、秘書がやったことだと言って関知しないという姿勢は国民感情として納得できない」と述べるなど、安倍氏の対応や検察の捜査に対する厳しい批判が込められる内容となった。

検察の「やる気のなさ」を厳しく批判…検察は当初から不起訴の結論ありきだったのでは?

 問題となった宴会は、2013~19年に都内の高級ホテルで行われ、「桜を見る会」に招かれた地元山口県の後援者などが参加。会費は5000円だったが、この金額ではまかなえるはずがない、として安倍氏側が補填した疑惑が持ち上がった。

 しかし、安倍氏は疑惑を強く否定。突然、1日2回もぶらさがり記者会見を開くなどして、積極的に“潔白”を主張した。安倍氏は、「すべての費用は参加者の自己負担で支払われた。事務所や後援会としての補填も立て替えもない。事務所にも後援会にも一切の入金や出金はない。政治資金収支報告書への記載の義務は生じない」と断言し、国会でも同様の答弁を繰り返した。野党の追及に色をなして反論することもあったが、真相を明らかにするための調査には消極的で、ホテル発行の明細書の提出を求められても突っぱねた。

 ところが、弁護士らの告発を受けた特捜部の捜査で、安倍氏の主張は崩壊した。

 検察の捜査は、山口県選挙管理委員会で政治資金収支報告書が保管されていた2016~2019年に絞られたが、この4年間だけで、約708万円を安倍氏側が補填していたことが明らかになった。特捜部は昨年12月、4年間の収支報告書に収入支出の合計3022万円を記載しなかったとして、安倍氏の元公設第1秘書で、後援会代表を務めていた配川博之氏を政治資金規正法違反で略式起訴した。すでに罰金100万円の略式命令が確定している。

 この際、安倍氏は不起訴となり、「会計処理は私が知らないなかで行われていた」「秘書に任せていた」と弁明。補填の原資については、「手持ち資金として、私が事務所に預けているものから支出した」と述べた。

 安倍氏は2019年11月~2020年3月に、国会で本件に関して内容虚偽の答弁を合計118回も行っていることが明らかになり、それについては陳謝した。

 今回の議決は、この時に不起訴となった容疑のうち2つについて、安倍氏を「不起訴不当」とした。ひとつは、宴会費用の補填は、選挙区内の人への寄付行為を禁じる公職選挙法に違反するのではないかという容疑。もうひとつは、安倍事務所の“金庫番”とも称されていた、安倍氏の資金管理団体「晋和会」の元会計責任者について、選任・監督に対する注意義務を怠った政治資金規正法違反の容疑だ。

 このうち公選法違反について、検察側は、宴会参加者には参加費以上の利益供与、すなわち寄付を受けた認識があったことを認定する十分な証拠がないとして不起訴とした。

 一方、検審の議決は、検察側が一部の参加者の供述だけで参加者全体の認識を判断したうえ、安倍氏本人や秘書の供述だけで、安倍氏の意図を判断した点などが捜査不十分だと指摘。「メール等の客観資料も入手した上で」認定するよう求めた。

 この指摘は、検察の「やる気のなさ」を批判したものともいえよう。河井克行・案里夫妻による公職選挙法違反事件を見てもわかるように、検察が本気で立件をめざす場合、まずは事務所などの捜索を行って、証拠類を押さえるのが定石。安倍氏に関しては、関係先を捜索した、との報はない。告発があった時点で、検察は当初から不起訴との結論ありきだったのではないか。

 それはおそらく、前夜祭は後援会の主催であり、ホテルへの支払いの主体も同じである、という安倍氏側の説明を鵜呑みにしていたせいではないか。だから、後援会の役職にも就いていない安倍氏を刑事責任に問うことはできない、と決めてかかったのだろう。しかし検察審査会は、この構図に疑問符をつけた。

検察審査会が安倍前首相に突き付けた「透明性」と「説明責任」

 議決書によれば、前夜祭の開催に当たっては、「晋和会」会計責任者の元私設秘書が「主体的、実質的に関与していた」。そう言い切るには、それだけの証拠があるはずだ。

 しかも、ホテルが発行した領収書の宛先は「晋和会」だ。通常、こうした領収書は、支払いの主体に宛てて発行される。それをあえて、同会ではなく支払いの主体は後援会である、と認定するなら、それなりに納得のいく説明や証拠が必要だ。ところが、そうした捜査が行われていない、という指摘だ。

 議決書は「(安倍氏側に)積極的な説明や資料提出を求めるべきであり、その信用性は慎重に判断されるべきである」として、検察の捜査のあり方に厳しく注文をつけた。

 支払いの主体が、安倍氏が代表を務める「晋和会」であり、そこがホテルと契約したのであれば、同会の収支報告書に収支を記載し、報告しなければならないはずだ。議決書は、同会の元会計責任者については政治資金規正法違反の収支報告書の不記載容疑で、安倍氏についてはその選任・監督責任に関して、捜査を尽くすよう求めた。

 議決書は、こうした結論を述べた後、「付言」として安倍氏に対して、強い批判を連ねている。そのポイントは「透明性」と国民に対する「説明責任」だ。

 まず、税金を使った公的行事である「桜を見る会」に、本来招待されるべき資格のない安倍氏後援会の人たちが多数参加していた件。「国民からの疑念がもたれないように、(招待者の)選定基準に則って厳格かつ透明性の高いものにしてもらいたい」と注文をつけた。

 そして、前夜祭の費用不足分を安倍氏の個人資産で補填していた、という説明についても、「疑義が生じないように証拠書類を保存し、透明性のある資金管理を行ってもらいたい」と要求。

 さらに、総理大臣を務めた政治家が、疑惑にきちんと答えず、問題が明らかになっても「秘書がやった」で済ませる対応に加え、国民に対する説明を怠った点についても、次のような批判を行った。

「国民の代表者である自覚を持ち、清廉潔白な政治活動を行い、疑義が生じた際には、きちんと説明責任を果たすべきである」

 検察審査会は、有権者の名簿から無作為に選出された11人で構成される。野党支持や安倍氏に批判的な人を意図的に集めることはできない。今回の場合は、法的な問題点について助言する弁護士が審査補助員として加わっている。そのような審査会において、メンバーの過半数が検察の捜査のあり方や不起訴処分に疑問符をつけ、安倍氏に対してこれだけ厳しい批判をしたことを、検察および安倍氏は重く受け止めるべきだろう。

 2回の議決で検察の判断とは関係なく強制起訴となる「起訴相当」と異なり、「不起訴不当」は検察が再度不起訴処分とすれば、刑事事件としてのプロセスは終わる。それを見越してだろう、安倍氏は「私としては今後、(検察)当局の対応を静かに見守りたい」と述べた。

 まるで他人事のような反応だ。しかし、「見守る」だけでいいのか。

安倍前首相は国会の場で説明を…検察も不起訴ありきではなく説明責任を果たせ

 補填疑惑が持ち上がった時、安倍氏側がきちんとホテルに問い合わせるなどしていれば、国会で内閣総理大臣が118回も虚偽答弁を行う、とんでもない事態にはならなかった。安倍首相は疑惑が向けられると、いつも野党議員に敵がい心を燃やすばかりで、真相解明や国民に向けての真摯な説明を避けてきた。

 加えて、安倍氏はネポティズム(権力者による身びいき)で、日本の政治を荒廃させてきた、との批判もある。「桜を見る会」を巡る一件はその象徴ともいえるだろう。

 この催しは本来、「各界において功績、功労のあった方々をお招きし、日頃の労苦、慰労をするためなどのため」に行われる公的行事だ。にもかかわらず、安倍氏などの後援者が数多く参加し、マルチ商法で知られる反社会的な人物が招かれ、それを悪用していることも明らかになっている。公的行事の私物化だ。

 安倍氏は議決書の「付記」を熟読し、自らを省みて、国民に語るべきことがあるのではないか。野党は国会での証人喚問を求めている。自民党の判断を待つことなく、安倍氏自ら、求めに応じて、国民に向けて語るべきだろう。

 検察も、不起訴ありきではなく、議決書が指摘した捜査不足の点をしっかり調べ、それを国民に説明してもらいたい。検察は不起訴事件の詳細を公表しないことが多いが、今回は安倍氏が現職の内閣総理大臣だった時期の容疑である。検察には国民への説明義務があるといえよう。

 たとえば公選法違反容疑について。検察は最近、菅原一秀・元経済産業大相を同法違反で略式起訴した(罰金40万円、公民権停止3年の略式命令確定済み)。当初は、香典や枕花など合わせて30万円分を選挙区の人に寄付していたと認定したうえで、起訴猶予としたが、検察審査会の「起訴相当」議決を経て再捜査の結果、地元の行事に参加した際の祝儀などを含め約80万円分の違法の寄付をしていたことがわかり、判断を一転させた。

 一方、安倍氏側の会費補填は、2016~2019年の4年間だけで708万円に上る。参加者ひとり当たりにすれば、金額は少額かもしれない。しかし、菅原氏が、地元団体が催す行事に出した数千円から1万円程度の祝儀も違法な寄付と認定されて立件されたことを考えれば、安倍氏側のケースも同様に考えるべきではないだろうか。安倍氏を再び不起訴にするなら、検察はそれについての説明が必要だ。

 また、ホテルは「晋和会」への領収書を出したのに、後援会が支払いの主体とする判断を維持するのかどうかについても、検討や説明が求められる。

 この事件は、まだ一件落着ではない。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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