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火山の噴火を人工的に模倣して地球温暖化を食い止める「成層圏エアロゾル注入」とは?


地球温暖化は進行し続けており、温暖化によって超巨大津波が生じるという可能性などがあることから、気候変動が「第三次世界大戦レベルの危機」と主張する専門家も現れています。こうした地球温暖化を食い止める具体的な方法とそのリスクについて、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtがアニメーションムービーで解説しています。

Geoengineering: A Horrible Idea We Might Have to Do - YouTube


21世紀の終わりまでに、人類は絶望的な状況に至ると考えられています。何十年にもわたる熱波や干ばつは通常ではあり得ないような不作を引き起こしており、漁獲量は年々減少し続けています。


熱帯では何百万という人々が飢饉に苦しんでいるだけでなく、資源を巡る戦争も生じたため、多数の難民が北を目指して移動しました。


各国政府は緊急対策を打ちだしていますが、世界の指導者が気候変動に上手に対処できなかった場合、絶望的なシナリオが現実味を帯びてくるという状況です。


近い将来、急速に進行している気候変動に対して抜本的な対策を講じる必要があるかもしれません。その抜本的な対策こそが、「Geoengineering(地球工学)」です。


地球工学は、人類が自ら招いた環境破壊を修復するという目的の学問分野で、地球に対する大規模な介入を研究します。しかし、その効果は未知数であり、何世紀にもわたる人類の環境汚染が元通りになる可能性もありますが、現状よりも悪化する可能性もあります。


地球工学で研究されている環境に対する介入方法は、「宇宙空間に大きな傘を建造して太陽光を遮る」「海水から雲を作り出す」といった空想的な手法から、「鉄を海にまいて藻類の繁殖速度を増加させる」といった荒っぽい手法まで多種多様です。


今回のムービーは、視聴している人が生きている間に実現しそうな「Stratospheric Aerosol Injection(成層圏エアロゾル注入)」について解説します。成層圏エアロゾル注入は、成層圏に太陽光を減衰させる物質を噴霧して地球温暖化を遅らせるという手法です。


二酸化炭素(CO2)は単体では地球を暖める効果を持っておらず、実際に地球を暖めているのは、太陽光に含まれる電磁放射線のエネルギーで、この電磁放射線のエネルギーの71%が地球の表面と大気に吸収されています。


吸収されたエネルギーは赤外線として大気中に再放出され、CO2はこの赤外線を大気中に閉じ込めるという役割を果たしています。


これは、寒い部屋の中で毛布にくるまったとき、毛布が体温を逃げないようにするのと似た働きです。


というわけで、地球温暖化を防ぐ方法の1つは、CO2によって閉じ込められるエネルギーを減らすことだといえます。


閉じ込められるエネルギーを減らすというのは、すでに自然が実践している方法でもあります。電磁放射線の29%は氷床や砂漠、雪山、雲によって反射されて宇宙空間に放出されています。


ここで一度、自然によって放出されるエネルギーを考えてみます。1991年にフィリピン・ルソン島西部に位置するピナトゥボ山で生じた「20世紀の中で2番目に巨大」とされる噴火は、犠牲者847人、行方不明者23人、被害者総数120万人という甚大な被害を出しました。


この噴火によって、打ち上げられた大量の微粒子とガスがしばらくの間成層圏に残留したため、地球の平均気温は大きな影響を受けました。


残留した微粒子やガスの中で、特筆すべきものは「二酸化硫黄」です。二酸化硫黄は硫酸を生み出し、水と反応して大気を遮る膜を形成します。


1991年のピナトゥボ山の噴火によって形成された膜によって、地球上に到達する太陽光は約1%減少。


世界の平均気温は0.5℃低下し、3年間にわたって冷却効果は続きました。


成層圏に直接硫黄粒子を噴霧して、ピナトゥボ山の噴火によって生じた冷却効果を人為的に再現しようというのが、成層圏エアロゾル注入です。


成層圏に硫黄粒子を噴霧するというのは現代の科学技術でも簡単に実行可能で、年間80億ドル(約8300億円)しかかからないという試算も出ています。80億ドルは高額に思えますが、地球温暖化が世界経済に与える被害額を考えると非常に安価。


実際に成層圏に硫黄粒子を噴霧する手段としては、「年に一度、特製の噴霧用飛行機を赤道上に飛ばす」という手法が考えられています。2010年に行われた試算では、年間5000万トンから8000万トンほど硫黄粒子を噴霧すると、地球温暖化が止まるとのこと。


しかし、成層圏エアロゾル注入は恐ろしい副作用を引き起こす可能性もあります。その一つが、「降雨パターンの変化」。成層圏エアロゾル注入によって地球の降雨量が減少した場合、大規模な飢饉が生じ、何十億もの人々が打撃を受ける可能性があります。


この他にも、「オゾン層の破壊」なども考えられます。実際に、1991年のピナトゥボ山の噴火では、二酸化硫黄が形成した膜によって地球表面の温度が低下すると同時に、成層圏の温度が上昇するという現象が発生。その結果としてオゾン層に穴が開き、南極オゾンホールは史上最大のサイズに達しました。何十年にわたって成層圏エアロゾル注入を続けた場合、同様の現象が発生する可能性があります。


オゾン層への影響について、「オゾン層にそれほど影響を与えない方解石を噴霧する粒子に混ぜると改善されるのでは」といった提言も行われていますが、効果のほどは実証されていません。


しかし、オゾン層への影響が皆無だったとしても、成層圏エアロゾル注入は良い方法とはいえないかもしれません。仮に成層圏エアロゾル注入を実行した場合、政治家と産業界は「すでに手を打った」としてCO2を削減しようとしなくなるかもしれません。


人類がCO2を排出し続けた場合、海水にCO2が吸収され続け、海水の酸性度は上昇し、サンゴ礁のような巨大な生態系が致命的な打撃を受けます。


CO2を排出し続けるのと同時に地球工学による介入で地球温暖化を防ぐというのは、時限爆弾の上に座っているようなものです。ひとたび地球工学による介入をやめた場合には、蓄積したCO2によって、地球温暖化がこれまでにない速度で進行します。(PDFファイル)2015年の試算によると、成層圏エアロゾル注入を50年続けてからやめた場合、地球温暖化の速度は成層圏エアロゾル注入を行わなかった場合の10倍になるとのこと。


最悪のシナリオでは、大規模な飢饉と急速な生態系の破壊が同時に進行し、地球は死の惑星になるかもしれません。


こうした事態を回避するためには、地球温暖化によって世界中が危機に瀕しており、地球工学は地球温暖化を10年か20年ほど遅らせるだけの手法だと理解する必要があります。地球工学が稼いだ時間で、人類はカーボンフリーな経済に移行し、大気中からCO2を回収する技術を開発しなくてはなりません。


数十年にわたって地球工学は議論の的となったため、地球工学を研究していた科学者の多くは理解を深めるために必要な実験を取りやめています。


しかし、人類はすでに毎年400億トンのCO2を排出し続けており、すでに地球工学的な実験を地球規模で実施してしまっているため、地球工学を完全に否定するのは近視眼的です。


うまくいけば地球工学に頼らなくて済むかも知れません。しかし、もし地球工学による介入が必要とされるときが来てしまうのならば、より良い介入を行うべきです。あらかじめ備えておけば、最悪の事態は切り抜けられます。


あらかじめ備えておかなければ、人類は自分自身の力で滅亡してしまうかもしれません。

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in サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log

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