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『仰天ニュース』謝罪、制作会社は過去に『ほこ×たて』等にも関与…やらせ繰り返される構図

協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授<テレビ報道論>
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日本テレビタワー(「Wikipedia」より)

 日本テレビ系番組『ザ!世界仰天ニュース』が裏づけを欠いた医療情報を放送し、日本皮膚科学会から抗議を受けて謝罪する事態になった。

『仰天ニュース』は毎週火曜夜9時から放送されているバラエティー番組だ。MCは中居正広と笑福亭鶴瓶が務め、2001年から放送されている番組だ。バラエティー番組でありながら「ニュース」という名前がついていることからもわかるように、実話がベースになっている。つまり世界各地で起きるにわかに信じられないような「実話」を、実際の映像や当事者の証言、再現ドラマなどで映像化し、地球上で起きているさまざまな問題について注意を喚起していく番組だ。このため、バラエティー番組とはいえ、「実話」や「正確な情報」としての裏づけがあることが前提になっている。

 9月7日の放送で、肌荒れを克服した女性の体験談を放送した。その際にステロイド薬をいっさい使わない「脱ステロイド治療」という治療法をとったことで結果的に肌荒れが治ったと放送した。これに対して日本皮膚科学会、日本アレルギー学会、日本臨床皮膚科医会、日本皮膚免疫アレルギー学会、日本小児アレルギー学会、日本小児皮膚科学会、日本アレルギー友の会(患者会)が、「科学的に明らかに根拠のない内容もあり」「多くの健康被害をもたらす可能性がある」などとして連名で抗議した。これを受けて、日テレは番組ホームページで9月14日に謝罪文を掲載した。

 今回の『仰天ニュース』の放送内容は何が問題だったのか。元日本テレビ『NNNドキュメント』ディレクターで現在は上智大学でテレビ・ジャーナリズムについて教鞭をとる水島宏明氏に話を聞いた。

問題点は?

――問題点は何だったのでしょうか?

水島氏 健康に関する情報は、視聴者の関心も高く、なかには切実な関心をもって見ている人も多いため、放送では裏付けをきちんと取った根拠がある情報を伝えないと大きな問題に発展してしまいます。テレビで伝えたやり方を鵜呑みにして真似をする視聴者がいることを考えなければいけないため、慎重に二重三重の医学的な監修を経て放送するのが大前提になっています。たとえばNHKの『ためしてガッテン』などのチェック体制を聞いたことがありますが、それはもう厳重なものです。

――以前も似たような不祥事は?

水島氏 2007年に関西テレビが制作してフジテレビ系で全国放送されていた『発掘!あるある大辞典II』という番組が「納豆ダイエット」を紹介して、その際に専門家のインタビューやデータなどを番組で「捏造」していたことが発覚。他にも数多くの捏造が見つかってスポンサーが降板。番組も打ち切りになり、経営トップも辞任に追い込まれたことがあります。

 テレビ番組の放送倫理のあり方をめぐって大きな議論が起こり、番組のお目付役と呼ばれるBPO(放送倫理・番組向上機構)が機構改革を行って現在の体制に生まれ変わる変革のきっかけにもなりました。放送業界ではそれくらいの大きな事件になったのです。それ以来は、いわゆる「やらせ」や「捏造」に対しては、BPOもより厳しく対応するようになったため、健康問題を扱った番組でそれほど大きな問題はその後、起きていませんでした。

――それなのに今回『仰天ニュース』でこうした不祥事が起きてしまった背景は。

水島氏 今回は日本皮膚科学会をはじめとして、関係する医師等の関係団体が抗議文を発表するなど迅速に動いたことで、患者さんがこの放送を鵜呑みにすることを防ぐことができたと思います。ただ、問題の根っこは残っていると思います。

 というのは、この番組を放送したのは日テレで、日テレは放送局として謝罪文を番組HPに掲載しています。放送したテレビ局としては当然のことですが、実はこれだけで問題を済ませてしまうと、また同じようなことが起きてしまいます。

問われる制作会社の責任と対応

――それは、どういうことでしょうか。

 水島氏 実際に問題になったVTR部分を制作したのはテレビ局ではなく、制作会社です。もちろんテレビ局は最終的に放送される番組の内容が裏づけのしっかりとある問題ないものだと確認してから放送しなければなりません。そのためのチェック体制がどうだったのかという責任はあります。ただ、どうしても後からチェックするだけでは見落としてしまう場合が出てしまいます。

 今回、この番組を制作したテレビ制作会社は、2013年にフジテレビ系の『ほこ×たて』で「やらせ」や「捏造」が発覚して番組が打ち切りになった際に関わっていた制作会社です。あとで問題になるとテレビ局が責任をとるため、番組が打ち切りになったりした後でも問題に関与した制作会社や制作者が、また別のかたちでテレビ番組の制作にかかわってしまうという構図があるのです。

 制作会社で働く制作者にはテレビ局の社員と比べて優れた制作者もいますが、どうしても予算や日数が限られているなかで次々と番組を制作しないと会社を維持できない面があるため、ときにはかなり乱暴な制作をする会社もあります。私自身は報道の記者という立場でしたが、そうした様子を間接的に見たことはたびたびあります。

 今、ワクチンの接種済みだと確認してから仕事をさせたりする仕組み、ワクチンパスポートが話題になっていますが、同じようにこうした問題に関わった制作会社や制作者にそのまま仕事をさせる形をとってしまうと、また同じようなことが起きてしまいます。テレビ局としても、そうした会社は使わないなど、ある程度は厳しい姿勢で臨むようなことをしていなかいと、再び同じような不祥事を起こしてしまうことになりかねません。

 この会社の関係者はTBSで同じく「やらせ」があっとしてレギュラー番組を打ち切りになった『クレイジージャーニー』の制作にも関与していたとされています。もちろん、一度何か問題を起こした会社は二度と番組を制作してはいけないというわけではないですが、制作会社も「こういうふうに反省した」という意思表示が最低限は必要だと思います。

 残念ながら、今回問題を起こした制作会社のホームページや社長のツイッターの投稿内容を読んでも、そうした反省の声はいっさいありません。こうした状態で、ほとぼりが冷めたらまた番組制作をするということを繰り返してしまうと、また同じようなことを起こしてしまうのではないかと懸念しています。今の時代は視聴者の信頼を得るためには、テレビ局だけが番組ホームページで謝罪文を出すというやり方だけでは足りないと判断されてしまうと思います。制作会社も含めて、丁寧な対応が必要ではないでしょうか。

 理想をいえば、ワクチンパスポートのように「研修済み」の証明書をテレビ局が出して、その上でその制作会社や制作者を再び使うような仕組みをつくることです。不祥事の再発防止の具体的な対応方法は各テレビ局に委ねられているので、現実的には各局がパスポートを出すような仕組みになると思います。視聴者から見ると、個々の制作会社の存在が現状では見えていないので、そこを可視化させることが大切だと思います。

(協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授<テレビ報道論>)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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