サイエンス

AIで宇宙を超高速かつ高精度でシミュレーションする技術が登場、560時間かかっていた解析をたった36分で処理


人工知能(AI)を用いて天体観測のデータを解析し、極めて短い時間で宇宙の構造をシミュレーションする技術が発表されました。これにより、従来は膨大な時間をかけて行わなければならなかった宇宙の研究が、高速化すると期待されています。

AI-assisted superresolution cosmological simulations | PNAS
https://www.pnas.org/content/118/19/e2022038118

Machine Learning Accelerates Cosmological Simulations - NSF AI Planning Institute for Data-Driven Discovery in Physics - Carnegie Mellon University
https://www.cmu.edu/ai-physics-institute/news/2021-05-05_supersims.html

New application of AI just removed one of the biggest roadblocks in astrophysics -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2021/05/210504191602.htm

天体望遠鏡などが収集した観測結果から宇宙の構造をシミュレーションすることは、宇宙の理解を深めたり、宇宙最大の謎の1つであるダークマターの正体を解明したりする研究に欠かせない作業です。しかし、これには膨大な演算コストが必要なため、これまではシミュレーション範囲か精度、あるいはその両方が犠牲となっていました。

そこで、アメリカ・カーネギーメロン大学の物理学教授であるTiziana Di Matteo氏らの研究チームは、敵対的生成ネットワーク(GAN)をベースにした機械学習アルゴリズムを高解像度の画像データでトレーニングすることで、低解像度の画像から高解像度の画像データを正確に生成するAIを開発しました。

こうして開発されたAIは、低解像度の画像(左)から元の512倍もの粒子を含む超高解像度の画像(右)を生成することが可能とのこと。


また、解析に必要な時間も大幅に短縮されました。例えば、約5億光年の領域に1億3400万個の粒子が存在するモデルの場合、従来はシミュレーションに560時間かかりましたが、AIはたった36分で完了させたとのこと。さらに、粒子の数を1000倍の1340億個に増やした場合でも、従来のシミュレーション方法では専用のスーパーコンピューターを使っても数カ月はかかるところ、AIはわずか16時間で終わらせることが可能だと研究チームは述べています。

Di Matteo氏はこの結果について「宇宙のシミュレーションにかかる時間を短縮できれば、物理学や天文学に大きな進歩がもたらされる可能性があります。宇宙をシミュレーションすれば、銀河やブラックホールの形成など、宇宙の過去から未来に至るまでの歴史をなぞることができるからです」とコメントしました。


また、論文の筆頭著者であるアメリカ・フラットアイアン研究所のYin Li氏は、「2年の間うまくいかず、行き詰まりを感じていましたが、突然うまくいくようになり、期待したような美しい結果が得られるようになりました。AIが生成したものと実際の画像を見比べてもらっても、どっちが本物でどっちが偽物なのかはっきり分かる人はいませんでした」と話しました。

今回開発されたAIは、重力がダークマターに与える影響を予測する手法を用いて開発されたため、宇宙の大規模な構造に関するシミュレーションは得意なものの、星の誕生や超新星、ブラックホールといった宇宙全体から見れば比較的小規模な現象は無視されてしまうとのこと。研究チームは今後、従来の手法とAIによるシミュレーションを並行して実行し、AIの精度を向上させていく計画だとしています。

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in ソフトウェア,   サイエンス, Posted by log1l_ks

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