【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回、ピックアップするのは三木聡監督らしさが炸裂する異世界ファンタジー『コンビニエンス・ストーリー』です。主演は成田凌さんと前田敦子さん。山奥にポツンと佇むコンビニエンス・ストアに吸い込まれるように入っていく主人公。このコンビニの中には何かあるのか……?

では物語からいってみましょう!

【物語】

主人公は、売れない脚本家・加藤(成田凌さん)。恋人の愛犬が書きかけの脚本にイタズラをしたことに腹を立て、犬を山奥に捨ててしまうのです。しかし、良心が咎めた彼は犬を探しにいくものの、見つからないどころか乗ってきた愛車まで見失ってしまいます。

途方に暮れる中、彼が見つけたのはポツンと佇むコンビニエンス・ストア。中に入ってみると、オーナー(六角精児さん)の妻の惠子(前田敦子さん)が働いており、加藤は彼女に助けられ、泊まらせてもらうことになるのですが……。

【三木監督らしい悪夢的なファンタジー】

時効警察』シリーズや映画『大怪獣のあとしまつ』など、シュールで独特なユーモアが持ち味の三木聡監督の最新作は、三木節が炸裂する異世界ファンタジー。

とても悪夢的な世界で、映画を観終わった直後には「なんか変な夢を見たな…」という感覚に。

どこに連れて行かれるのかわからないドキドキ感は三木監督作ならでは! よくわからなくなってしまうのですが、吸い込まれるように観てしまいました。

【ドリンク売り場に要注意!】

本作は前半の早いうちから、メイン舞台となるコンビニに加藤が吸い込まれていきます。

加藤が飲み物を買おうと、ドリンク売り場の冷蔵ケースのドアを開けて飲み物を取るとその奥には “ある人物” がいて、こっちをじっと見ているんです。そう、このコンビニが異性界への入り口なんですね。あ〜怖い怖い!

加えて、親切な奥さんの惠子はぐいぐい誘惑してくるし、その夫は森の演奏会の指揮者として山中で奇妙な行動をしているし、この人たちなんなの!?

【主人公と一緒に奇妙な体験】

加藤は、コンビニオーナー夫妻や変わった環境に翻弄され、流されていきます。彼がさまざまな経験を経て成長していくドラマではないので、加藤はただその状況にオロオロしているだけ。

しかし、加藤の心情はそのままこの映画を見ている私たちの心情かもしれません。

加藤は「わけわからん!」と思いながら巻き込まれていくのですが、それは観ているこっちも同じ。だから、なんとなく加藤と一緒にコンビニオーナー夫妻に振り回されているような気持ちになっていくのです。奇妙なコンビニというミステリアスなアトラクションに乗っているようでした。

【でも現実世界も変だよねって話】

そもそも加藤の恋人・ジグザク(片山友希さん)も「大丈夫かしら?」という風変わりな女性ですし、加藤の職業が脚本家ということも考えると、「全てが加藤の脳内の出来事なのかしら? 」とか、たぶん違うんですけど、いつの間にかそう考えてしまいました。それは、現実世界と異世界の境界線が曖昧だったからかもしれません。

ずっと夢から覚めない感じがちょっと怖い。「あーよかった」とホッとさせてくれないところが不気味さに拍車をかけていました!

キャスティングもバッチリで、ずっと三木聡監督の大ファンだったという成田凌さんが、何者にもなれる柔軟な魅力を発揮していますし、前田敦子さんも妖艶な人妻を怪演していました。

ホラーとは違う、程よい不気味感が暑い夏にぴったりだと思います。ちょっと変な世界を覗いてみたい人にぜひ体験してほしい!

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:(c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

『コンビニエンス・ストーリー』
(2022年8月5日より全国ロードショー)
監督・脚本:三木聡
企画:マーク・シリング
出演:成田凌、前田敦子、六角精児、片山友希、岩松了、渋川清彦、ふせえり、松浦祐也、BIGZAM、藤間爽子、小田ゆりえ、 影山徹、シャラ ラジマ