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トップ棋士に勝つ囲碁AIを開発したDeepMindはサッカーでのAI活用を目指してリヴァプールFCと協力している


Googleに買収された人工知能(AI)企業のDeepMindは、イングランドの名門サッカークラブであるリヴァプールFCと協力して、AIを用いたデータ活用の方法を模索しています。

Advancing sports analytics through AI research | DeepMind
https://deepmind.com/blog/article/advancing-sports-analytics-through-ai

Now DeepMind is using AI to transform football https://t.co/MNTODzTWqZ

— WIRED UK (@WiredUK)


サッカーにおけるロングボール戦術である「キック・アンド・ラッシュ」の生みの親であるチャールズ・リープは、イングランド3部リーグの試合を観戦している際に、数え切れないほどの攻撃の機会が無駄に終わっている様子を見て、サッカーの戦術革命が行き詰っていることに気づきました。その際、リープはノートとペンを取り出し、ピッチ上で起きた出来事を細かくメモし、データを使用してサッカーを分析するという試みを始めます。これがサッカーにおけるデータ活用の始まりであったと考えられています。

その後、サッカーにおけるデータ活用は進化していき、統計的データ分析で世界最高の選手であるリオネル・メッシを分析するという試みも行われています。

世界最高の選手リオネル・メッシの何がすごいのかが統計的データ分析で明らかに - GIGAZINE


近年、データ活用が加速するサッカー界において最新の取り組みを行っているというのが、イングランドの1部リーグであるプレミアリーグの2019/2020シーズンのチャンピオンであるリヴァプールFC。同クラブは囲碁AIの「AlphaGo」を開発したことで一躍注目を集めたDeepMindと協力して、サッカーにおけるデータ分析に人工知能(AI)を活用しようとしており、AI関連の学術誌であるJournal of Artificial Intelligence Research論文を公開しています。

リヴァプールFCとDeepMindのコラボレーションは、リヴァプール大学との協力からスタートした取り組みだったそうです。リヴァプールFCとDeepMindの研究者たちが集まり、AIを用いて選手やコーチを支援する可能性を模索するところからプロジェクトはスタートしています。なお、DeepMindの創設者であるデミス・ハサビス氏は熱狂的なリヴァプールFCファンとして知られており、プロジェクトのアドバイザーとして参加しています。

DeepMindとの取り組みにおいて、リヴァプールFCは2017~2019年までの3年間分のプレミアリーグにおける試合データを提供。近年、サッカー界においてもデータ活用が盛んになっており、センサーやGPSトラッカー、コンピュータービジョンアルゴリズムなどを用いて試合や練習中の選手およびボールの動きを追跡しています。そのため、これらのデータから人間には気づけないパターンなどをAIが発見できるのではないかと期待されたそうです。

DeepMindのAI研究者であり、論文の筆頭著者のひとりであるKarl Tuyls氏は、AIを用いてサッカーにおけるデータ分析を行うことは「非常に興味深いもの」と語っており、その理由について「チェスや囲碁にはない『サッカー固有の不確実性』が存在するため」と説明しています。


DeepMindとリヴァプールFCが公開した論文では、特定のチームとラインナップに関するデータを用いてAIモデルをトレーニングすることで、特定の状況下で選手がどのように反応するかを予測しています。例えば、マンチェスター・シティFCと対戦する場合、右サイドにロングボールを蹴ると、同クラブのカイル・ウォーカーやジョン・ストーンズといった選手が右サイド方向に走り、どういったアクションを行うかを予測してくれるわけです。これにより、選手交代が試合におよぼす影響などをコーチが把握できるようになるとのこと。


以下の画像をクリックすると、攻撃側(青)と守備側(赤)の選手が、どのようにボール(白)と共に移動するかをAIモデルが予測した様子をムービー形式でチェックすることが可能です。


他にも、論文では過去数シーズン分のヨーロッパで行われたサッカーの試合から、1万2000回以上のペナルティーキックを分析しています。分析では選手をポジション別に分類し、そこから最も得点率の高いコースを予測しました。例えば、ストライカー(緑)の場合はミッドフィルダー(青)よりもゴール左下のコースを狙うケースが多いことが明らかになっています。


さらに、研究チームはAIモデルをトレーニングすることで、パスやタックルといった特定のアクションが「xG(ゴール期待値)」にどの程度影響を与えるかを分析しています。このモデルを用いれば、特定の状況下で「シュートではなくパスを選択する」方がゴールの確率が高まることを選手に数値で示すことが可能です。加えて、選手のパフォーマンスデータ(体力やフィットネスといった情報)でモデルをトレーニングすれば、人間のコーチよりも選手の疲労状況などを正確に予測できるようになり、選手が怪我する前に休息を与えることも可能になります。

なお、サッカーにデータ活用をもたらしたリープは、統計結果からほとんどのゴールが「4回以下のパス」から生まれていることを発見します。ここからリープはロングボールを主体とした戦術を推奨したわけですが、リープの統計にはいくつかの欠陥が存在しており、現代のサッカーにおいてもロングボール戦術は古いスタイルであると指摘されています。

サッカーにおけるデータ分析においても、AIが「対戦相手にボールを保持させミスを待つことが最適である」と算出したことがあります。このような間違った推論を防ぐために、AIモデルを専門家に調査させることは重要であるとTuyls氏は語っています。また、Tuyls氏は「我々はロボットを作ろうとしているのではなく、人間のサッカーのプレーを改善しようとしています」と語っており、AIを用いることで「選手でさえ見逃してしまうようなパスコースをAIが見つけ出すこと」が可能になるケースもあるとのことです。

加えて、Tuyls氏はAIがサッカーのコーチに取って代わることはないと主張しており、「AIを活用する目的は、ピッチ上の選手と上手く統合し、コーチの仕事をより容易にするためのシームレスなシステムを構築することです」と語りました。また、AIの影響について、「今後1年で大きな影響が出てくるというわけではないものの、5年以内にはいくつかのツールが開発され、試合のハーフタイムに後半に向けたアドバイスを与えてくれるようになる」とも述べています。

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in ソフトウェア, Posted by logu_ii

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