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第一次世界大戦を教訓にメンタルヘルスケアの基礎を築いた医師たちとは?

by manhhai

第一次世界大戦が終結した1920年ごろ、過酷な戦場で精神に傷を負った兵士たちの症状は砲弾ショックと呼ばれ、爆発の衝撃で脳が損傷したものだと考えられていました。このように精神医療が未発達な時代に、誰もがメンタルヘルスケアを受けられる社会の実現に向けて尽力したイギリスの医師たちの活躍を、歴史学を扱うイギリスの月刊誌History Todayがまとめています。

The Lessons of Shell Shock | History Today
https://www.historytoday.com/history-matters/lessons-shell-shock

◆:ヒュー・クライトン=ミラー
スコットランドの精神科医であるヒュー・クライトン=ミラーが、1920年9月27日にロンドンに設立したタビストック・クリニックは、イギリスで最初に外来の精神科を設置した医療機関の1つです。クライトン=ミラーら6人の精神科医は、当時「機能的精神病」と呼ばれていた精神疾患の患者を治療するため、無料奉仕する専門家であるプロボノとして働いていました。そんなタビストック・クリニックの診察料は無料で、経済的に余裕のある人にだけ診察1回当たり5シリング(現代の通貨価値に換算すると約1000円)を請求していたとのことです。

クライトン=ミラーがこうした活動を行うようになったのは、1914年に志願してイギリス軍医療部隊に所属した時の経験がきっかけです。この時、砲弾ショックに苦しむ兵士に施したジークムント・フロイトの心理療法が効果を上げたことで、クライトン=ミラーは「一般の人にも精神的な治療法を受けられるようにするべきだ」と確信するようになりました。

by Mike Peel

◆:グラフトン・エリオット・スミスとトム・ハザレイ・ペア
クライトン=ミラーのような先進的な考え方は、1917年にグラフトン・エリオット・スミスが著した「Shell Shock and Its Lessons(砲弾ショックとその教訓)」という本の中にも記されています。

解剖医であるスミスと、その同僚である心理学者のトム・ハザレイ・ペアは、イングランド北西部の都市リヴァプールの郊外にある軍の病院で働いた経験から、著書の中で「戦争の教訓を無駄にしないためには、兵士に効果が現れたような精神的な治療を民間人にも応用しなければならない」と主張しました。戦前は、不安障害や不眠症、うつ病に苦しむ人には薬草などから作られた睡眠薬が処方されるのが関の山でしたが、こうした状況に変化が訪れたのはスミスらの尽力に負うところが大きいといえます。

◆:ヘレン・ボイル
ヘレン・ボイルは、女性や子どもの精神疾患や神経疾患に目を向けた最初の医師の1人でした。19世紀末ごろにロンドンの貧民街であるイーストエンドで働いていたボイルは、そこで社会的困窮やストレスがどのように人を苦しめるか学んだ後、1905年に自宅近くに女性を無料で治療する病床数10床の小さな病院を開設しました。そこで入院生活をする女性の様子についてボイルは、「田舎での生活は魅力的なようですが、都会暮らしだった人たちは今では自動車のモーター音ではなく鶏の鳴き声に悩まされています」と語ったといいます。

第一次世界大戦中にセルビアで軍医として従軍したボイルは、戦地から戻った1918年に精神疾患を治療する大規模施設を設立するための資金集めを開始。1920年に別荘近くでレディ・チチェスター病院を開きました。ボイルのレディ・チチェスター病院は、1928年には外来患者用の設備と地域精神医療体制を備えた病床数50床の規模にまで拡大し、当時のイギリス有数の精神医療施設となりました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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