サイエンス

「雨水を飲む」行為は地球上のあらゆる場所で危険という研究結果、「永遠の化学物質」が原因


雨水にはポリフルオロアルキル化合物(PFAS)という自然界に存在しない人工化学物質が含まれています。このPFASは近年危険視されるようになっており、国際的に最も厳しいPFAS関連ガイドラインに照らすと、雨水は世界中のどこでも安全に飲めない可能性がストックホルム大学の研究者らによって発表されました。

Outside the Safe Operating Space of a New Planetary Boundary for Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS)
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.2c02765

Rainwater everywhere on Earth unsafe to drink due to ‘forever chemicals’, study finds | Euronews
https://www.euronews.com/green/2022/08/04/rainwater-everywhere-on-earth-unsafe-to-drink-due-to-forever-chemicals-study-finds

人工の化学物質であるPFASは非粘着性や防汚性に優れており、食品の包装や電子機器、フライパンの焦げ防止などに広く用いられています。近年ではPFASの有害性が注目されており、2021年10月にはアメリカのバイデン大統領がPFASの規制を発表したり、マクドナルドやAmazonが食品の包装に使用することをやめたりと、対策に動いています。日本でも2010年4月に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の第一種特定化学物質に指定され、製造および輸入が許可制となったことや、例外的にPFASの使用が認められていた半導体も2017年の法改正で規制されるなど、PFASは事実上全廃されました。

また、PFASに含まれているペルフルオロオクタン酸(PFOA)は、がんの原因として知られています。そのため、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)が定める「水中に含まれるPFOAの安全ガイドライン値」は、20年前に設定されていた値の3750万分の1まで低下しています。論文の中で、ストックホルム大学のイアン・カズンズ氏は「世界中の多くの人々は雨水が安全に飲めることを期待しており、飲料水源として考えています。しかし、EPAの最新のPFOAガイドラインに基づくと、雨水に含まれるPFOA値は安全基準を大きく超えており、雨水は世界上のどこでも安全に飲めないと判断されます」と述べています。


以下の画像は雨水に含まれるPFOA、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、PFOAやPFOSなどを複数組み合わせたPFAAsの量を、場所ごとに計測してグラフ化したもの。一番上がPFOAについてのグラフで、波線はアメリカの最新の健康基準値を示しています。真ん中はPFOSについてのグラフで、波線はアメリカの健康基準値とEUが設定する有害基準値を示しています。一番下はPFAAsのグラフで、波線はデンマークの飲料水ガイドラインを示しています。青い棒グラフはサンプルが「フッ素ポリマー工場」の近くで採取されたもの、黄色い棒グラフは「都市部」、緑の棒グラフは「農村」、赤の棒グラフは「人口の少ない田舎」でそれぞれサンプルが採取されています。グラフによると、雨水中のPFOAレベルはどの場所でもアメリカの健康基準を上回っていることが分かります。また、人口が少ない田舎地域を除くと、PFOS値およびPFAAs値についても、ほとんどの場所でアメリカの健康基準を上回る結果となりました。論文によると、PFASレベルが比較的低い地域も地球上にありますが、南極やチベット高原などの人里離れた地域でも、雨水中に基準値を超えたPFASが発見されたとのこと。


PFASは自然界や体内で分解されにくく、一度生成されると蓄積されやすいことから「永久に残る化学物質」とも呼ばれており、不妊症やがんのリスク増加、子どもの発達の遅れに関連している可能性が高いと考えられています。

論文で使用されたPFAS基準値は国際的に最も厳しいガイドラインに基づいたもので、これはPFASの国際ガイドラインとして代表するものではないとのこと。また、PFASやPFOAは環境や人体に残り続ける物質ですが、健康状態の悪化との直接的な因果関係が証明されているわけではないと主張する意見もあります。一方で、ストックホルム大学の研究結果を受けて、PFASに対するより厳しい制限を求める声も上がっており、チューリッヒの食品包装財団でマネージングディレクターを務めるジェーン・ムンケ氏は「何百万人もの人々の飲料水を汚染し、深刻な健康問題を引き起こしている一方で、一部の人が経済的に利益を得ているということは許容できるものではありません。飲料水中のPFASを安全なレベルまで下げるのにかかる莫大な費用は、これらの有毒化学物質を製造および使用する業界によって支払われる必要があります」と規制についての意見を表明しています。

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in サイエンス, Posted by log1e_dh

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